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THEATRE MOMENTS 『遺すモノ ~ 楢山節考より~』直撃取材!!

遺すモノ楢山節考公演画像1

11月28日に前橋で公演をされるTHEATRE MOMENTS 「遺すモノ ~ 楢山節考より~」。今回は演出・脚色の佐川さんにインタビューさせていただきました。

(注釈は肩番号にカーソルを合わせる・タップするとご覧になれます。)

演出・脚色の佐川大輔さん

―今日はよろしくお願いいたします。
まずは公演の内容についてお聞きします。群馬は東京に比べると演劇に親しみの薄い方(ライトユーザー)が多いのではないかと思っています。楢山節考はそういった方々でも楽しめる演劇なのでしょうか?

佐川:楢山節考は、少し現代的な演出にしていますし、一般的な演劇(新劇など)とは違った見せ方をしています。けれども、原作は誰が読んでもわかる有名なお話ですし、実際に水戸や北海道では、東京とは違う客層の方、特に年配の方でも非常に感激して満足されていました。僕としては、そういったライトユーザーの方にも観ていただいて、「こういう演劇表現もあるんだ」と感じていただくきっかけにしてもらいたいです。

―楢山節考のストーリーの重さに対して、(フライヤーやサイトでの画像を見る限り)視覚的な楽しさもあるように思います。その辺りもお聞かせください。

佐川:海外で上演した時の経験からすると、台詞劇では、ニュアンスが伝わりにくい部分もあるかもしれませんが、ビジュアルの面白さは伝わりやすいと思っています。宣材写真で使っているものもそうですが、実際に演出している時にも、見ているシーンがお客様の想像力を刺激できるように、ビジュアルとして楽しいというか、目で見ても面白いように意識して作っています。

『遺すモノ ~ 楢山節考より~』メインビジュアル

―そういった演出はどこから発想されますか?楢山節考では「木枠」を使われていますが、そういった小道具から発想されるのでしょうか?

佐川:実は作り方が特殊で、いつも原作(今回なら楢山節考)を決めてから役者を集めますが、その時点では、どの人がどの役をやるとか、脚本をどうするのか、といったところは決めてないんですね。集まったメンバーに向けて僕が「今回の作品で原作はこうだけど、僕たち流に作るとしたら、テーマ性とか、今に伝わるメッセージをどのように作っていきたい?」みたいな投げかけをして、大枠のところから話し合いをして、その流れで「じゃあ今回小道具(アイテム[efn_note]THEATRE MOMENTSさんではそのように呼んでいるそうです。[/efn_note])を何にする?」という話しに移るんですね。
例えばテーマが「ルール(決まり事)」になったとします。そこでルールを舞台上で見せていく時になにを小道具として使ったらいいか、(つまり)お客さんが見終わった後、「なぜあの小道具でこのお芝居をずっとやったのだろう」と考えるようにするためにも、小道具にテーマ性 = 意味を託せないか、と考えて、みんなで日常使う物でトライアルする(試す)んですね。稽古場に持ち込んで、モノボケ大会みたいなことをするわけですよ。ビニール袋とか、傘とか、いろいろ持ってきて。それで、「楢山節考のこんなシーンで使えるんじゃない?」と、2, 3日稽古の中のワークショップでやる。今回の場合は木の枠です、あと写真というのも一つのキーになっています……本当は木の枠だけでいこうと思ったんですが、僕がどうしても写真を使いたかったので。すると、じゃあ枠から写真のイメージをつなげると、フォトフレームのようにも使えるな、とか。

『遺すモノ~楢山節考より~』過去公演から

佐川:大枠の小道具が決まると、シーンの頭から脚本にしていきます。その時点で集まったメンバーをキャスティングして、台本化して、やはりこれも表現方法なども相談しながら稽古の中で作っていきます。1シーンずつ書き上げてエンディングまでつなげる作り方をしています。通常の稽古の3倍くらい時間がかかりますね。「デバイジング[efn_note]集団創作。演劇の制作過程に即興劇を取り入れた手法。[/efn_note]」といって、欧米で言われているスタイルに近いと思うんですけど、作家が脚本をかきあげるという形ではなく、演出家を中心に役者やスタッフがアイデアを出し合いながら作品を作るというやり方です。

過去の公演画像(左:マクベス、右:フランケンシュタイン/怪物)

―作り方の部分から特殊な形式を取られているんですね。

佐川:はい。創作の段階も特殊ですし、小道具を決めるまでも結構な時間がかかっていますね。

―佐川さんが全部決められてるんじゃないかと思っていました(笑)

佐川:いや、本当に僕一人ではなく、みんなのアイデアでやっとできてるんで……。見終わったお客様が「いや〜、あの演出すごいね!どうやってやったの?」「佐川さん頭の中どうなってるの?」なんて言われる時もありますけど、僕の頭の中はそんなでもなくて、みんなのアイデアなんですよ。

―完成形のイメージから作り上げている訳ではないんですね。

佐川:全く逆です。ゼロから作っていて、その流れの中でエンディングが決まっていくような形なので。

―エンディングですら流れの中で作っていくと……?

佐川:一応最初の段階でプロットは作りますよ。プロットを組んだ上で、エンディングはこういう方向にしたいね、もしくは、野望としてここまでいったらいいね、みたいなことは言うんですけど。でもそれはシーンとして台本化するのではなく、あくまでイメージの段階で、「ゴールはこのイメージだね」という話をみんなでしてスタートする。地図がないことには、右往左往しちゃうので。だいたいの部分は決めるんですけど、でもそれはあくまで目指すべき方向なだけで、その時に面白いと思うものがあったら変える勇気も持ってみんなでやっています。

実際の稽古の様子

―(そのような作り方ではキャスティングが難しいのではと思いますが、)キャスティングはどのようにされているのでしょうか?プロットさえあればできるのでしょうか?

佐川:そうですね。でも作品の流れによっては、いつまでも自分の出番がこなくて不安になる人もいるようで(笑)「あ、この役で出てくるのね」なんてこともあるみたいですよ(笑)

―今回佐川さんご自身も出演されますが、これもキャスティングの時点で決まっていたことなのでしょうか?

佐川:実は普段の作品では、僕は演出の時には出演しないんですよ。演出に専念しないとまとめ切れないので。今回は再演なので、初演の時は僕は出ていなくて、再演だと初演の時の役者のスケジュールが合わないだとか、今の場合だとコロナもあってなるべく関わる人数少なくした方がいいところもあって、今回は出演することになりました。なので、初演の場合、私は演出のみです。

―グンゲキは演劇関係者の方もよく閲覧いただいているようなので、そういった創作過程のお話を伺えるのは大変ありがたいです。

佐川:僕らがやっているようなやり方はあまり主流ではありませんが、多分今後増えるんじゃないかなと思います。アーティストたちがコラボレーションするとか、俳優さんもただ作家さんや演出家さんに言われて役を演じるだけでなく、作品のテーマとか、いろいろな部分を深く考えてアイデアを出し合えるような、そういう風土が演劇界にも増えてくればいいな、と思ってます。

佐川:もちろんケースバイケースだとは思いますが、高校演劇やプロダクションでも演技を教えていると「どういう風に演技したらいいんですか?」って、演技の仕方を教えてほしいと言われます。それは「あなたがあなたらしく考えたように演技をする」のがベースだから、演技の仕方を教えるのはしたくないなぁ、というのはよく言うんですけど。

―「自分を開く」というのが基本にあるように思いますね。

佐川:「自分を開く」ためにはその前提として、確固たる自分ができてないと難しいと思うんですよね。日本人って、「自分を開いて見せる」とか、「自分に自信を持つ」上で重要な自己肯定感が低いから、どうしても俳優さんも自分を開くことが苦手な傾向が強いなぁと感じています。僕自身にもそういう経験があるから言えるんですけど、もっともっと自分がどういう風に表現をしてみたいとか、こういうことやってみたいだとかが、発言できたり表現できたりできるようになってくるといいなぁと思います。

―佐川さんご自身はワークショップなど、そういったことができる場所を作っていたりするのでしょうか?

佐川:稽古場ではいつも「遊び感覚で稽古しよう」と提案していて、上からものを言うようなことはせず、まずは役者さんにやってもらって、そこから引き出すようにしています。ワークショップでも、演技指導でも、とにかく「その人が何をやりたいか」を否定せずにやっていくことを、特に若い方に指導するときは意識してやっていますね。

稽古場での佐川さん

―ありがとうございます。(かなり話が逸れましたが、)続いて、なぜ今回、群馬での公演を選ばれたのでしょうか?

佐川:「遺すモノ」で、姥捨山に母を捨てにいく息子役をやっている主演の大窪晶さんが、高崎に拠点を置いているBallet Noahでパフォーマンスやワークショップを定期的に行ってることで、地方ツアーに前橋を入れました。

―結構大窪さんの影響が大きいですね。

佐川:そうですね。
公演のチケット購入で割引になるワークショップを開催してくれるなど、かなりお力添えいただいています。

主演の大窪晶さん

―群馬県内には適度な公演場所がないイメージがあります。いかがでしょうか。

佐川:前橋市民文化会館の700席のホールは小劇場じゃないですもんね。他にも小さめのホールがあったのですが、日程が合わなかったのと、どうしても間口4間、奥行き4間のアクティングエリアが欲しくて、あと大きい方が良いかなと思いまして。ちなみに前橋は今回の地方ツアーの中で一番大きいホールです。髙崎芸術劇場はAFF[efn_note]ARTS FOR THE FUTURE!の略。文化庁のコロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業という助成金。[/efn_note]の締め切りが急だったので、申請期間の兼ね合いで断念しました。

佐川:楢山節考は山の寒村のお話なので、群馬でやるには良いかなと思っています。もともと山梨県のお話ですが、姥捨山伝説は他の地方にもありますし、群馬でも山間の感じや雪が降った感じなど、感覚的に捉えやすい部分もあると思います。

―その流れを踏まえて、今回は特に、どのように何を伝えようと思って作られましたか?

佐川:初演は2015年でした。当時のテーマは「ルールってなんだろう」だったんですが、ちょうど「安全保障関連法案(安保法案)」について賛否両論、議論が紛糾していた時期です。憲法9条の戦争放棄、この戦後に作られたルールを変えようとする動きがかなり大きくあり、反対する国会デモなどもさかんに行われていました(編集部注:結果、安全保障関連法案は2015年9月に成立。集団的自衛権の行使を可能にすることなどが盛り込まれ、戦後日本の安全保障政策が大きく転換することとなった)。
楢山節考では【老人は70歳になったら山へ行く】というルール、古い慣習がある。ルールには良い点もあれば悪い点もある。それを私たちはどのように考えていくか、変えていくか、もしくは変えないか。それをこの作品を通して考えていきたいと思いました。楢山節考は古典のお話ですけど、今私たちの中に規範としてあるルールをどのように考えることができるか、と思って作りました。
2021年現在、コロナの状況で様々なルールの中に私たちは生きています。そのルールには賛否両論あり、世代によって受け取り方も異なっています。楢山節考でも、70を超えたら老人は山へ行くけれども、若者はそれを自分とは関係のないことだと思っている。そういった世代間の分断というか、価値観の違いを楢山節考を通して考えてもらえるのではないか。 同時に、今様々な年齢の人たちが様々な生き方をしているけれど、何十年先に何を残せるかが、僕からのメッセージというか、考えたいことです。最近、衆議院選挙が終わって、憲法9条についても議論が再燃してきているようで、僕はちょっとした運命を感じています。

―ありがとうございます。舞台上の表現方法、からだの動きがとても綺麗なのは、何か意識されているのですか?

佐川:俳優さんたちにとって訓練は大変で、練習は細部まで拘りをもって行っています。僕はなるべくシーンが流れるように、それは、お客様が見ていていつの間にかシーンがどんどん変わっていくような演出を心がけているので、俳優さんたちにも通常のお芝居よりフィジカル面で高い要求をしています。

―それはなぜ?

佐川:僕自身、俳優をやりながらコンテンポラリーダンスをやっていたことがあります。俳優が演じる時に、身体性が伴わないような台詞の言い方には面白みを感じられなくて、僕は身体表現に興味を持ちました。ただ日本では、欧米のような大きなアクションをすると、むしろリアリティがなくなるので、転換など細かい部分でフィジカルパフォーマンスを追求しています。

―本公演はもともと海外公演の予定だったと伺っています。海外では非常に高い評価をいただいたそうですが、海外での評価と日本での評価はどう違いますか?

佐川:どちらも評価としては一緒だと思いますが、日本での評価の方が演劇的なジャンルの中では、僕らは少しアウトローに捉えられているのかなと思います。つまり、現代演劇の観客層の人たちには、現代演劇的ではないと思われているのでは、という印象です。

―現代演劇的とは?

佐川:僕の印象ですが、日本の小劇場ファンは、戯曲としての作家性を求めている方や実験的・前衛的なものが現代演劇だと思っている方が多くて、そういう人たちにとってTHEATRE MOMENTSの作品はどっちつかずに映っているのかもしれません。
一時期僕は、日本の演劇から少し距離をとって、海外の演出家の作品に触れたり、ワークショップとかよく受けていた時期があるんですが、その時一番影響を受けたのがジャック・ルコック[efn_note]フランスの役者・演技指導者。身体表現の指導に長け、役者が自分に合った演技方法を見つけられるようなトレーニングを行っていた。[/efn_note]です。ルコックは「言語や文化的背景を超えたユニバーサルな身体演劇」を目指していて、僕も「海外に日本から持っていく作品を作ろう」、「日本の基準ではなく、世界・海外基準の作品を作ろう」という意識がとても強くなりました。少ない小道具で見立てて、大掛かりなセットはなしで、役者の身体表現を重視する、そういう作品を今も作っています。
楢山節考は日本的な背景のあるお話ですが、日本的なオリエンタリズムではない見せ方をしたので、そこも評価されたのかなと思います。

―最後にメッセージをお願いいたします。

佐川:できれば、ふだん子育てしたり、会社勤めをしたり、あまり演劇を観る機会のない方にも観てもらいたいです。この公演から、他の演劇も観てもらうようなきっかけになれればとも思っています。いろんな世代に観ていただくと、それぞれの世代に感じるところのある作品になっています。幅広い方々に観ていただけると嬉しいです。

―どうもありがとうございました!

本公演PV

参考:過去公演(フランケンシュタイン/怪物)PV

参考:過去公演(PANIC)PV

編集部より

世界に通用する演出家でありながら、常に謙虚なものごしだった佐川さん。
作品作りについて語られる時には「みんなで」と強調されており、デバイジングという創作方法には一際こだわりをお持ちのようでした。

世界レベルの小劇場演劇を群馬で観られる貴重な機会です!
28日は前橋市民文化会館(昌賢学園まえばしホール)まで是非足を運んでみてください!!

公演情報・予約はこちら

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