表現ユニットえんぶる 公演直前突撃取材!!
9月2日,3日に第2回公演『僕たちの町は一か月後ダムに沈む』を控える表現ユニットえんぶるさんに取材させていただきました!今回は演出の上田裕之さんにお話を伺うことができました。
上田さんプロフィールはこちら。
趣味だからこそ突き詰める、面白さへの「こだわり」
―よろしくお願いいたします。えんぶるさんは、すごいこだわりを持っていらっしゃるという評判を伺っております。
上田:うーん笑、来てくださったお客様に楽しんで帰ってもらうというか、自分が観に行った時に楽しめるものをせめて作らないと、という思いはありますね。
―「やっている自分たちだけが楽しいのは違う」ということでしょうか?
上田:難しいところですけど、(僕たちは)プロじゃなくて、あくまで“趣味”でやってるんです。ただ、その“趣味”にお客様を巻き込むわけで。
参加者(役者)のご家族にも、いろんなところで理解や協力を仰がなきゃいけない部分があって、そういう負担もありつつ、みんなが少しずつ協力したりお願いしたりすることで成り立ってるんです。
お客様がお金を払って観に来てくださるのなら、「ただ自分たちだけが楽しければいい」“趣味”とは訳が違います。もちろんその考え方も大事なんですけど、軸足を考える時には、お客様が入るってことをちゃんと前提にしなきゃなって考えてます。
―観に来てくれるお客様と、公演に参加してくれる役者やスタッフのそれぞれに満足してもらうためのこだわりを、分けて伺いたいです。
上田:お客様向けの満足は、楽しんでいただけるものを作って提供するのが、こだわり、最低限のルール、マナー、エチケット…のように思います。
参加者への満足に関しても、楽しんでもらいたいという気持ちが強いです。学びの場というか、「みんなでより良くなろう」と思ってます。僕が持ってる知恵や工夫・情報はみんなで共有したいですし、逆にみんなが持ってるものもどんどん出してほしいんです。1人だけの知恵では偏ってしまったり限りがあるので、それぞれが持ってる思い・力・知恵・工夫を総動員してほしいと思ってます。その総動員の起爆剤になるものは、こっちで用意しなきゃいけないですし、こっちも皆さんに熱量を出してもらえるだけの熱量で取り組まなきゃいけないと思うんですけど。
上田:すごくシンプルなスタートは、「観に行った帰りにいろいろ話し合えるような面白いものを、群馬で観たい」ということなんです。そのためには、僕も含め、群馬演劇界全体がもっといろんな力をつけないといけないと思っています。
熱量を出してもらえる稽古場作りー群馬演劇界全体のスキルアップへ
―役者のキャスティングの際、条件などはありましたか?
上田:いくつか要件がありましたね。
1つは、月1回でやってる、えんぶるラボに来てくれてる人。もちろん、役に合う・合わないもあるんですけど。
もう1つは、こちら側が興味を持っている人。キャスティングする前にいろんな芝居を観に行ったんですけど、魅力的な人にはやっぱり目星をつけてました。
上田:それと今回、いい影響や情報を共有したり、いろんな声を聞いたりするために、できるだけいろんな出自・団体・種属からキャスティングするように意識しました。同じ団体・種類の人で作る「劇世界」よりも、せっかくユニットという形での活動なのでより豊かにしたいというか。
…もちろんいやらしい話、集客のためもありますけど笑。
上田:そして、この現場で得た影響や情報を、持ち帰ってもらいたいと思ってるんです。
現場では、いろんな役者さんから影響や情報を吸収できるじゃないですか。で、結果勉強になって、より良くなって、自分たちの古巣に戻った時にそれが活かせる。それがまたいい影響を与えていけば、徐々に(群馬演劇界全体のレベルが)上がっていくと思ってまして。
そのためにはいい場を作って、いい交流を生んで、そのうえで「いいものを作る状況」を作るのが大事なのかなと思います。「少しくらい稽古を休んでもいい」と思われてしまうような状況だと、熱も生まれないし、いい芝居にならないし、エネルギーが漏れてくと思うんです。
その意味では、(稽古期間の)1・2・3月はちょっと…。今の方がより熱があって、「ちゃんと徐々にいい空気が作れたな」と思っています。
―徐々に熱量があがったと上田さんが思われる要因はなんだと思いますか?
上田:今作は、中学校の同窓生たちの話なんです。だから10月からの稽古の序盤に、(役者同士で)友達になるためにワークショップを開いて、声や身体を交流させる内容に取り組んだんですよ。おかげで、早い段階でぎこちなさはなくなったし、交流も生まれたと思います。
そのあと1月からは、このスケジュール通りに行きますと伝えました。そのうえで本人が前向きな気持ちになるような状況を整える方が大事なのかなと。本人にやる気がない時に「やる気出せ」って言ってもできないですよね。「笑え」と言ってもなかなか笑えるもんじゃない。だから、やる気的にちょっと稽古を始めにくいと思ったら、2〜3分違う話を振ったり、個別にこっそり演技の話をしたりして、エンジンを温めるようにしてました。
より良い表現作りにおける「考える」ことの重要性
―伺った感じでは、(押さえつけるのでなく)意見を吸い上げながら、言うなれば相互的に演出をされていらっしゃるようですが、そのあたりの稽古はどのように作っていますか?
上田:…皆さんより少し先に行くというのは大事かな。伴走ではなく、ちょっとリードするくらい。(稽古で)「考えて」ということはよく言っています。言い方が悪くなってしまうかもしれませんが、考える力を持つ役者が少ない、そんな印象を持っています。
―演出に答えを求めてしまうような?
上田:そうですね。言われたことをやるだけでもすごいことだし難しいことだと思います。でも、自分が役やセリフとどうフィットするかとか、自分がやりやすいやり方すら考えないのはどうなんだろうと。何ヶ月もかけてお芝居をやるのに、自分の意見が何もないのは寂しいなと。他人事のままじゃどうにもならない。自分の意見を持って、思いをちゃんと込めてもらえるような状況って、とっても大事だと思うんですよね。「自分で考えたけど、演出の言っていることと違う。ただそれが俺なりの答えだ!」となれば、それはいいと思う。
そういう意味では、考えてきてくれたことの吸い上げはしますし、出してくれたことに対して「僕が思っていたことと違うけど、面白いね。やってみよう!」となることは多々あります。
誰かに言われてやった表現より、役者が自分で考えて選びとった表現のほうが強いと僕は思ってて。だから、考えてほしい。(いっそ)誤読して思い込みまでいってほしい笑。そこまでいった表現はなかなか強いぞと思うんですよね。
「僕らの答えは何?」って考えなきゃ、この14人(今作の出演者)でやる意味がない。ちゃんと自分たちで考えた表現にしようと思うので、そこは焚き付けますね。
上田:ただ、他人の表現に茶々を入れるのは、つまらなく感じます。「ここはこうした方がいい」って先輩風吹かせるのを見ると、演出家としては、ちょっとやめてほしいなと思います。言ってしまえば、みんなどんぐりというか、十把一絡げじゃないですか。アマチュアで、趣味でやってて、1人の知恵だけでは大したことない。それを寄せ集めてやるのがいいんです。本人が選んでない表現は弱いので、できるだけ本人が選んだものを認める。逆に言えばそのことで、こっちも認めてもらってる部分はあるかもしれないです。
アマチュア演劇ならではの特長と文化的側面
―個人的には、商業でやってる演劇は、システマチックに組まれているような印象を受けます。対してアマチュアでやってる作品は文化的な側面が強いと思ってて、だからこそ感じさせるパワーみたいなものがある気がします。
上田:プロの人たちも必死にやってるし、商業演劇も芸術や技術の面で長けていて、(アマチュアとは)別の戦い方をしているので、すごいところだと思います。
ただ、さっき木田さんがおっしゃった“文化”が、僕はすごい大事だと思ってます。(アマチュアには)たいした技術はないかもしれない。でも、生活者としての心・息遣いみたいなものは、プロの人たちには出せない部分があって。どうしたってプロの人は、たとえば(実際には)サラリーマンじゃないのに、サラリーマンの役をやるじゃないですか。(一方で)サラリーマンの人がサラリーマンの人の役をやった時に、プロがやったのとは違う、取材や技術で得たものとは違う何かを持ってる、っていう良さがあると思うんです。それは、その人の生活感や息遣い・背負ってきてるものというか。(プロの人が)夢の世界・絵空事を、現実のように見せるのとはどうしたって違うというか。
誤解を生みそうな言い方ばかりなんですけど笑、(アマチュアは)知恵や積み上げてきたもの・その地域が持ってる文化みたいなことを背負ってる、本当に現実を生きてる人たちなので、そこをおざなりにして技術だけ求めると、おかしな話になるぞと思います。
技術的なことと、その人の持ってるいろんなものっていうのは、もちろんどっちも大事なんでしょうけど、僕らが持ってるアドバンテージでいえば「生活感や息遣い」の方なので、これを持ち込んだまんま芝居づくりに取り組んでもらいたいですし、技術面は僕らでできる限りサポートしたいと思っています。
だから僕は、もちろん芸術活動の側面はありますけど、どちらかというと文化的な活動という認識を強く持って(演劇を)やってます。
上田:…ただ、面白くなきゃしょうがないんですよね。「意味のある作品」とか言いますけど、面白くなければ、次観に来ようと思わないじゃないですか。その(次観に来ようとする)可能性、潜在的なお客様を潰すものを作っちゃダメだと思ってます。だから、僕らのやることに興味を持って見に来てくれた人たちが、楽しんで次(につながる)…。この小さな種を撒いていくことが積み上がって、観にきてくれる人が増えていく公演を続けていきたいと思ってますし、これは自分も含めですが、県内の演劇に携わる皆さん全員に「みんな考えよう、勉強しよう」と思います。
上田:実は稽古場で、「今まで自分が観たなかで、1番良かった作品と1番悪かった作品の要素を一言で表して」という話をしました。当たり前だろってことも、全部言葉にしてもらって。その、当たり前の、自分が欲してるものをおざなりにするのはどうなのかと思うから、「せめて、あなたが面白かった作品が面白かった要素に準じてやろうぜ」って言ったんですよね。
「アマチュアだから甘えてもいい」じゃなくて、「アマチュアなんだから頑張ろうぜ」って。タモリさんの「仕事じゃないんだから真剣にやれ」じゃないですけど、「今回はえんぶるに関わってしまったので諦めてください。僕らはガチ寄りの“趣味”なんで、この熱量でやります。」って話はしてまして。「最後までガチ寄りの“趣味”に付き合ってください。」みたいな。
…春くらいからかな?皆さん付き合ってくれて、ちゃんと自分事としての熱量でやってくれてるので、何の心配もなく、今はより良くやれてます。全体的な心配は特にないですね。
群像劇の「自分で選び取る」という魅力
―作品の魅力を、一般的な(演劇に詳しくない)お客さん向けに語るとしたら?
上田:(今作は)ジャンルで言えば、どちらかというと「群像劇」っていう、それぞれの役にスポットが当たって、当たったスポットが絡み合って物語が進行していくスタイルなので、観る人や観るタイミング、人生の岐路のどこにいるかによって、感じ方や感情移入する役が変わってしまうんです。何なら、観る(客席の)位置によっても印象が変わってくると思うので、観た人それぞれの楽しみ方ができるのが、とても面白いと思います。
上田:みんな35歳とか大人の役なんですけど、途中で中学生になるんです。そこの面白さもあるかな。急にみんなシャカリキになって、大汗かきながら中学生を演じるっていう馬鹿馬鹿しさというか、面白さもあるかもしれないですね。エンターテインメント性もありますし。
―今回の演目は、上演時間が結構長いですよね?
上田:2時間20分(15分休憩含む)ですね。
でも、飽きることなく観れると思います!ちょっと心配もしたんですけど、エンターテインメントな部分、シリアスな身につまされる部分、ぶつかりや葛藤、同窓生ならではの仲の良さ…。いろんな楽しみ方ができるので!
―何となく観ててもずっと楽しめるような作品なのでしょうか??
上田:与えられたものを享受するだけの作品ではない、かもしれないですね。(今作は)テレビの「スイッチング」みたいな、「この人に注目」「ここだけを見て」っていう芝居ではないので、観る側も(観るものを自ら)選び取らなきゃだし、セリフを言ってない人の動きやあり方の方が、人によってはむしろヒットする、注目したいところかもしれないので…。日常を生きる中で、たとえば今の瞬間も、何かをしながら選び取ってると思うんです。舞台上で起きることの中にも、お客さん自身が選び取る選択肢がいっぱいあると思います。
―頭を使って自分で考えながら作品に浸りたいような人にはかなり刺さるような…?
上田:そういう面があると思います。ただ、なかなか全てを理解する、そしてスッキリ!という作品ではないので…。作品を観ていく上で、特に序盤、「(この人は)こういう人」っていうカテゴライズはするかもしれないですけど、2時間観ただけでは、なかなか登場人物一人一人を理解するのは難しいかもしれないです。でも、現実でもその人の本当の姿なんてわからないと思うというか。気持ち・ニュアンスのほんの一部はわかると思いますが、今回は14人出ますし…。
作り手側としてもちろん整理はしますし、わかってもらわないと先に進めない部分もあるかもですが、でも、誤解を生みそうですけど、「人の本当に辛い部分とかわかんねえだろ」とも思っていまして。だから、あえてわかりやすく誘導するのではなく、観てくださるお客様の心や頭の中でぐるぐるといろいろな思いや感情が渦巻くといいなと思っています。また、そうやってきっとそれぞれのお客様の感じ方が違うところもこの作品の良さなんじゃないかと考えています。
上田:あと、「ノイズ」を持ち込んでって思ってます。そこもこの作品の見所のひとつというか。
脚本に書かれてることをただ言えば物語は進むんですけど、それってすごくつまんない。なんでそれを言うかって、その人の出自や身体・持ってる情報によって違うと思う。違うんだから、「違うこととして表現をする努力はしましょうよ」って思ってまして。
この人の人生、観る人の人生・岐路で見てほしいっていうか…。お客様を試してるんじゃないんです。楽しんでもらいたいから、ちゃんと楽しめるラインを作ってるんですけど…。
なんていうか、本当に、2回3回見てほしいです。売り文句としてだけじゃなく笑、2回観るとまた違う印象や面白さがあったり、3回観るといろんな人がいろんな情報を持った状態で舞台上にいたりするんで。ミスリードとか、もったいぶってるっていうことじゃなくて、全員がちゃんと日常を生きてる人間としているっていうのをのをやっているので。
―地方・群馬でやることの意味や、より面白くなる部分も伺ってもいいですか?
上田:この作品はフィクションだけど、いろいろとエッセンスをいただくモデルとして、八ッ場を選んだんです。(僕が)群馬の中でお芝居をやる中で、同じ熱量で「より良く」なれる友達を作りたかったんですよ。群像劇だし、みんなにウエイトがあって手も抜けないし、八ッ場だから、自分たちの話にもなりうる当事者性みたいなのがあると思って選びました。
―最後に何か一言あれば伺いたいです。
上田:11ヶ月かけて、いい大人が十何人稽古場で顔を合わせて、時間も熱量もかけて作った作品です。
タイトルだけ見ると「社会派なんだ」って思われるんですけど笑、特に社会派じゃなくて、ダムに沈む町に住んでた友達、同窓生たちの話です。
一言でまとめるのは難しいですけど笑、全員が持ってる知恵とか工夫とか思いとかを込めて作ってきたので、ぜひ楽しんでご覧になっていただけたらなと思います。
誰かと観て、帰りの車でいろんなお話をしてもらえるような、とても見応えのある作品になっていますので、お誘いを忘れず観にきてください!笑
―上田さん、インタビューありがとうございました!
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